電気のこれからを考える「場」

現場の底力

浜岡原子力発電所廃棄物管理課のメンバーにクリアランス測定技術を伝えるため、放射線管理区域で防護服を着用し、タービン軸の放射線レベル測定に立ち会う。

廃止措置の原子力技術で
日本、そして世界の将来を
切り開く

中部電力 原子力安全技術研究所
渡邉 将人(わたなべ・まさと)
原子力安全技術研究所 研究副主査。1997年4月入社後、浜岡原子力発電所機械保修二課に配属。その後ʼ98年より、技術開発本部、本店原子力本部などを経て、2015年より現職。岐阜県大垣市出身。
原子力安全技術研究所

<原子力安全技術研究所>

浜岡原子力発電所のさらなる安全性の向上と発電所の運営改善を目指して、2012年に発電所構内に設置された専門研究所。原子力をエネルギー源として安全に利用するために必要な研究や将来を見据えた研究を、現場と一体となって取り組んでいる。

原子力発電所の技術を支える
飽くなき研究開発

「研究職のやりがいとは、自分が開発に携わった成果が、誰かに使ってもらえて役立つということです」。
中部電力原子力安全技術研究所(以下、原安技研)の渡邉将人は、自らの研究結果を振り返り、研究職としての喜びをそう語る。
渡邉は、原子力部門が主体となって開発した「クリアランス測定技術」に放射能評価を専門とする研究者として携わった。この技術は、原子力発電所の放射線管理区域内で使用された資材・機器などの放射能濃度を測定する画期的な方法である。

  • クリアランス:ある物質に含まれる放射能に起因する線量が、自然界の放射線レベルと比べて十分に小さく、人体への健康への影響が無視できるレベル であれば、その物質は放射線物質としての管理は不要とし、一般のものと同様に扱うことを「クリアランス」という。

「原子力発電所では、原子炉でつくった蒸気に触れたものは、放射能で汚染されています。ほんの少し汚染しただけでも、廃棄するとなれば、放射性廃棄物として扱うことになり、非常に高いコストをかけて埋設処分しなければならず、発電コストのアップにつながります」

国内での検討や国際的な指針を踏まえ、日本では2005年に「クリアランス制度」が導入された。これによって、原子力発電所の運転や廃止措置に伴って発生した廃材のうち、人体への影響が無視できるレベルの放射能濃度のものについては、国の認可・確認を得て、リサイクルまたは普通の廃材として処分ができるようになった。この制度ができ、クリアランス測定技術の重要性がさらに高まった。 このクリアランス測定技術が確立される前は、放射能の汚染レベルを測定する場合、放射能濃度を実態よりも必要以上に過大に評価していたという。

そこで、渡邉を含む開発メンバーは、放射能の分布を事前に調査し、遮蔽物で放射線が減衰する割合を計算する方法を確立させることによって、実際の値により近づく測定技術を開発した。現在、特許の申請も行っている。この技術はタービン軸・翼の放射能濃度を測定するためのものとして国の認可を得て実運用している。こうした新たな技術が、他の電力会社や、世界でも今後スタンダードになるという期待が高まっている。

測定

管理区域内に設置した分析室で、放射化されやすい元素の濃度(例:コバルト)を測定している様子。放射能濃度を計算で求める際の入力データとなる。

ますます必要となるクリアランス測定技術

浜岡では経済合理性を踏まえ、ʼ08年に浜岡1、2号機の廃止措置を決めた。「全国あるいは世界的にも、将来的に原子力発電所の廃止措置を進めるケースは増えていくことが予想されます。従って、今後、クリアランス測定技術の必要性はますます高まっていくと思います」。その他にもう一つ渡邉にとってこれからの研究テーマとなるのは、廃止措置となっている浜岡1、2号機の設備全体の解体である。

「ここにもリサイクルできるものがたくさんありますので、資源の有効利用とコスト削減のため、解体した設備にクリアランス制度を適用していくための取り組みをしています。これまではタービン軸と翼だけを対象としていましたが、今後は多種、大量の設備を対象とするので、その放射能濃度を、効率的に測定する技術が求められています

原子力安全技術研究所 実験棟

原子力安全技術研究所 実験棟。材料強度試験装置(左)、電子顕微鏡(中央)、光学顕微鏡(右)を使用して、材料の劣化メカニズムの解明などに関する研究を行っている。

制御棒駆動装置

解体を待つ浜岡1号機の制御棒駆動装置。原子炉を運転・停止する際に必要な制御棒を動かす装置。制御棒は水圧で動かしており、緊急時には、タンクにある窒素ガスと水で制御棒を高速に挿入して原子炉を停止させる。今後解体する予定。

原子炉格納容器の出入口

解体を待つ浜岡1号機の原子炉格納容器の出入口。運転中は厚さ2mのコンクリートプラグで蓋をして放射線を遮蔽する。格納容器内にある原子炉を含め全ての機器を解体する予定。

現場との連携がカギ

原安技研は、浜岡原子力発電所の敷地内にあるため、現場ニーズを的確に反映しやすい。発電所の各部署と連携し、意思疎通を重ねることが、クリアランス測定技術のような困難な研究テーマの推進力にもなっている。

クリアランス測定の実務を担うのは、浜岡原子力発電所の廃棄物管理課のメンバーであり、その現場を支えるのは、グループ会社のプロフェッショナルである。

「研究職というと、専門性の高い職種なので、個人だけで完結できる研究もあります。しかし、発電所の状況を把握して進める研究の場合、いかに現場と連携するかが大切です。現場関係者のおかげで、研究開発に必要な試験データや分析データを確実に取得することができます」

原安技研が浜岡原子力発電所の中にあることは、研究にとっては大きな利点となっている。

「研究テーマは現場で行うものが多いですが、日々、関係者に説明したり、現場で膝を突き合わせて議論することができます。また、その試験データが必要となる背景情報まで説明するよう心掛けています。そうすることで、現場関係者の方々からの改善提案や自分自身の検討不足の指摘につながり、よりよい研究ができます」

渡邉将人

周囲との関係性を重視するため、専門的な技術や研究内容について、分かりやすい言葉で話すように心掛けている。

安全を最優先にいかに技術を磨き
原子力発電の将来につなげていくか

渡邉は電気系の技術者だった父の影響もあり、子どもの頃のアマチュア無線をきっかけに技術に関心を持つようになった。中学生の時『チャイナ・シンドローム』という映画で描かれていた、原子力発電所の所員が、身を挺して発電所を守ろうとする姿に深く感動し、その使命感に憧れを抱いた。
研究専門員として中部電力入社後、最初の1年は浜岡原子力発電所でのスタートとなった。

「浜岡原子力発電所で働く中で、『機械は故障する場合もある』『人はミスする場合もある』ということを改めて学びました。そうしたリスクのあるものを扱っているという意識で、自分たちは何重もの安全対策を施しています。その意識は、福島第一原子力発電所の事故をきっかけにさらに強くなりました。安全性を大前提とした上で、安全保障や環境への適合性といった観点から、原子力の必要性は揺らぐものではないと考えています。研究開発を通じて、いかに原子力発電の将来につなげていくか、その道筋を立てるのが自分の使命だと考えています」

これまでの研究成果に手応えを感じながらも、渡邉は決意を新たにした。

文・構成/森 一市 撮影/水谷 文彦

ランニング

週に一度、浜岡の発電所構内をランニングする。安全対策で行っている工事の進捗が見られるため、風景が常に変わり、飽きずに走ることができるという。

ピアノ

長女がピアノを習い始めたのをきっかけに、独学で身に付けた趣味のピアノを練習している。

実家

実家は、岐阜県大垣市の兼業農家を営む。週末は、子どもたちと一緒に米作りや野菜作りを手伝う。

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