電気のこれからを考える「場」

直言提言
福井工業大学 工学部原子力技術応用工学科 教授来馬 克美
(くるば・かつみ)1972年大阪大学工学部原子力工学科卒。同年、初の原子力専門の技術系職員として福井県庁に入庁。原子力安全対策課長、総合政策部企画幹などを歴任。若狭湾エネルギー研究センター専務理事を経て、2012年4月より現職。’10年『君は原子力を考えたことがあるか~福井県原子力行政40年私史』を上梓。

福井で培ってきた地域と原子力の
自立的な連携とは

原子力発電所を単なる「発電施設」にとどめることなく、地域振興、地域の方々の暮らしとの共存共栄を図ることは、電気事業者にとって重要な使命である。たくさんの原子力発電所が立地する福井県において住民目線に重きを置き、長きにわたって原子力行政に携わってきた来馬克美氏に、「地域と原子力のあるべき連携」について語っていただく。

地域の"かかりつけ医"として
原子力の健全性をチェックする

福井県は、5つのサイトに15基の原子力発電所が立地し、現在10基のうち2基が再稼働、5基が廃止措置の予定である。さらに2基の増設計画がある日本最大の原発立地県である。地元出身である私は、福井県庁初の原子力専門職員として1972年に採用されて以来、37年間にわたって原子力行政に携わってきた。
当時も今も福井県の原子力に対する基本姿勢は「原子力3原則」である。

福井県「原子力3原則」
  1. 安全が確保されること
  2. 地域住民の理解と同意が得られること
  3. 地域に恒久的な福祉がもたらされること

福井県は、安全を国や事業者任せにせず、自らが厳しく監視することを貫いてきた。国は総合病院、立地県は近所の"かかりつけ病院"に例えられる。原子力のもつ公共性を考えると、国の長期的な政策と立地県の即応的な施策が不可欠だ。地域が身近で監視するから、お互いに緊張感を持ち、大きな事故(病気)になる前に、予兆で気づき、安全性(健康)の維持が可能になると思う。

世論では、必要だから運転するという推進派と、危険だから止めるという慎重派の二極対立に分かれがちだ。しかし、立地県の人々は、目の前にある原子力とともに暮らし、「安全に運転する」ことの必要性を知っている。そうした住民目線に立った立地県の現実的な施策が国と並立することが重要となる。

さまざまな原子力発電所が集積する
特性を生かして「電気をつくる工場」から
エネルギーの総合的な研究開発拠点へと進展させたい

エネルギー研究開発拠点化を進め
地域との真の「共存共栄」を目指す

原子力と地域を語る際「地域との共生を図る」というが、福井県では、あえて「自立的な連携」を理念として掲げてきた。電気事業者、地域住民など関係者が他者に一方的に依存することなく、各自が自立するためには何をすべきかを考えたうえで連携することによって、原子力を介した真の「共存共栄」が実現するという思いからだ。

これまでの取り組みとして、’81年に「アトム(原子力)ポリス(都市)構想」が提唱された。公共施設の建設による「点」だけでなく「線」でつなぎ「面(地域)」で繁栄を図りたいというもの。原子力発電所が集中立地している特性を生かし、エネルギー関連技術や地域産業への応用技術の研究、研修などを実施する施設整備に取り組んだ。

’94年には、エネルギーに特化して医療・産業・農業などへの活用による地域振興を目的とした「福井県若狭湾エネルギー研究センター」を設置した。2005年3月に出された「エネルギー研究開発拠点化計画」の推進エンジンとしての役割も担っている。

来馬克美

「エネルギー研究開発拠点化計画」とは、原子力発電所を「ただの電気をつくる工場」にとどめることなく原子力を中心としたエネルギーの総合的な研究開発拠点に進展させることを打ち出したものである。「安全・安心の確保」「研究開発機能の強化」「人材の育成・交流」「産業の創出・育成」の4つを基本理念に掲げ、国、自治体、電気事業者、大学、産業界などが一体となり、具体的なエネルギー施策を展開している(図参照)。

エネルギー研究開発拠点化計画の4つの基本理念

消費地とのギャップを埋めるためにも、
原子力発電所が「地域に根付いている」という
実績を発信していく努力が必要だ

原子力の将来を見据えながら人材育成、安全確保の取り組み
廃炉ビジネスのノウハウを蓄積

’08年からは新たな「重点施策」を設け、「国際的な研究機能の集積」「アジアの安全技術・人材育成への貢献」「地域産業への貢献」を強化した。

昨年度からは、地域経済の現状、雇用情勢を踏まえ、県内企業の成長市場への参入や、原子力関連技術の移転を促進。新産業の創出を加速するとともに、原子力発電所の廃止措置に対応するためのレーザー技術の開発や、県内企業の廃炉ビジネスへの参入促進などにより、嶺南(れいなん)地域(福井県南部の若狭湾沿岸)の産業振興に力を注ぐことを示した。

すでに廃炉が決まっている「ふげん」を活用した原子炉廃止措置研究開発センターをはじめ廃止措置の研究を積極的に推進している。福井で蓄積されたノウハウは、県外や国外にも応用される可能性を秘めている。

また、原子力がベースロード電源として将来も安全第一に稼働できるように、原子力人材の育成や原子力緊急事態への対応など、安全確保の徹底のための取り組みを継続的に行っている。私が勤める福井工業大学工学部原子力技術応用工学科では、「コンプライアンス意識を持つグローカル(国際的視野と立地地域の視点を重視)な原子力人材育成」を目指している。知識や技術だけではなく、コミュニケーション能力や倫理観を持つ技術者の育成を行っている。

福井県の原子力施設

「伴走者」として地域の声に
誠実に応え続けてこその信頼関係

電気事業者は、原子燃料サイクル、プルサーマル使用済燃料の中間貯蔵など多くの課題を抱え、将来の見通しが立ちにくいという厳しい環境下に置かれている。荒れた暗い道であっても、地域と原子力の「自立的な連携」のために、電気事業者はしっかりと立ち、転ばないよう自分の力で一歩一歩必死に進んでいってほしい。その際、わき目も振らず突っ走るとしても、「伴走者」は「地域」であることを忘れてはならない。電気事業者、原子力発電所は、その地域にとって決して「よそ者」ではなく、互いに信頼する「伴走者」であり、一体である。原子力、火力、水力を問わず、電源施設は日本のどこかに立地しなければならず、そこには必ず住民が暮らしているという現実がある。

それには地域住民との信頼関係が前提となる。築きあげるには長い時間が必要となるが、まずは自分たちにとって都合のよくない情報でも包み隠さず公開してもらいたい。後になれば「その程度のことか」と思うようなことでも、タイミングを逃すと二度と口に出せなくなるし、隠したことが発覚すると「もっと隠しているのではないか」と疑われてしまう。相手が求めていることに対して、誠実に応え続けることでしか、信頼関係は生まれない。

福井県の経験からアドバイスすると、「百聞は一見にしかず」だ。まずは発電所を一人でも多くの人に見学してもらうよう努力していただきたい。たとえ発電所内に入らなくても、その立地地域に実際に足を運び、そこに発電所が40年以上存在し根付いていること、その周辺で住民が普通に生活していることを実感してもらうだけでも十分なのである。

「原子力はなくていい」という意見が多い都市部を中心とした電力消費地の理解を深めていくためにも、「原子力発電所が地域に根付いている、馴染んでいる」という実績を国も立地県も電気事業者も、積極的に発信していく努力が必要だと考えている。

これまで福井県が原子力と厳しく向き合ってきた半世紀以上にわたる経験と実績は貴重な財産でもある。「原子力と地域との自立的な連携」という福井県の試みが、原子力の平和利用を目指す世界各地でも参照されるべき先駆的モデルケースとして貢献できると信じている。

文・構成/丸上直基 撮影/秦英夫

来馬克美
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