電気のこれからを考える「場」

古田貴之
千葉工業大学常任理事/未来ロボット技術研究センター所長古田 貴之
(ふるた・たかゆき)1968年、東京都生まれ。ʼ96年、青山学院大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程中退後、同大学理工学部機械工学科助手。2000年、博士(工学)取得。同年、科学技術振興機構のロボット開発グループリーダーとしてヒューマノイドロボットの開発に従事。ʼ03年6月より現職。先端ロボット技術の創造、企業との連携を通じて、「ものごとづくり」に取り組む。

ロボット技術を生かした「ものごとづくり」で
幸せな未来をつくりたい

進化する人工知能(AI)や技術革新により、先端ロボット技術は身近なものとなりつつある。その進化は、将来、私たちの暮らしや社会をどのように変えていくのか。幼少期からロボット博士を志してきた未来ロボット技術研究センターの古田貴之所長に語っていただく。

「ものごとづくり」の発想に転換しないかぎり
明るい展望は開けない

ロボット技術によってこれからの社会がどのように変化していくかは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが大きな契機となる。成長戦略として政府が進める「改革2020」プロジェクトの一つにロボットが挙げられている。

私は、「改革2020」のユニバーサル未来社会推進協議会の副会長として全体に関わっている。専門分野である先端ロボット技術は、ʼ20年までにさまざまなカタチで街中へ実際に導入され、誰もが体験できる場が生まれるという構想を描いている。

ロボット技術は日本の得意分野であり、どこの国でも実現していない製品企画やプラットフォーム、サービスを創出しようとしている。ただ全く新しいシステムやサービスをつくっても、誰も体験したことがないものだと消費者は買おうという気持ちにならない。そこでロボット技術を体験できる場をつくり、同じタイミングでパートナー企業から新製品を発売する。このパッケージで初めてロボットの"ものごとづくり" ができると考える。

ロボット技術の研究開発において、「ものづくり」はいくらつくっても孤立した一品をつくるだけである。重要なのは「ものごと(文化)づくり」なのである。最先端のロボットが大道芸のようにデモンストレーションするだけではなく、それによって世の中が変わり、人々の生活や社会に幸せをもたらすことが重要である。今までなかった文化をつくる「ものごとづくり」という発想が、ロボット技術で未来を開く上で重要である。例えて言えば、新種の野菜をつくることよりも、それを新たなレシピによって食卓に届けることによって、「食文化」を豊かにする方が大切だということである。

古田貴之

「ピンチをチャンスに変えれば日本は、もっとよくなる」という信念が原動力だという。

"ロボット愛" の原動力は停滞する日本への危機感。
ピンチをチャンスに変えて世の中の不自由をなくしたい

ロボットの正体とは
「感じて・考えて・動く」知的な機械

ʼ20年を機に、世の中がどのようになっていくかというと、ロボット・宇宙探査・人工知能・海洋エネルギー・金融工学を核としたシステムで大きく変革していくだろう。そのロボットの分野で、世界最高レベルの開発力を持つのが、私が所長を務めている「未来ロボット技術研究センター」(fuRo=フューロ)であると自負している。

fuRoは、未来に向けてロボット技術を研究している大学の学校法人直轄の研究機関で、従来の大学における付属機関とは異なり、企業でも、国でもない初の研究拠点として発足した。ロボット研究は複合的研究であり、エレクトロニクス・機械工学・人工知能・プログラムなどの専門家が必要だ。われわれの研究員は世界トップクラスの人材がそろっており、企業との共同研究開発、原子力発電所など災害対応ロボットの開発などで多くの実績を挙げてきた。

具体的な開発事例を少し紹介する。ʼ15年に、大手自動車部品メーカーとの共同プロジェクトで、未来の乗り物「ILY - A(アイリーエー)」を開発した。技術開発をfuRoが受け持ち、すでに技術移転を終え、2020年までに製品化する計画だ。

実は、この乗り物は、高齢化社会をスタイリッシュに解決することをコンセプトとしている。本当の高齢化社会は、高齢者がアクティブシニアとして若い世代と同様に経済活動と文化活動を牽引して、社会の主役となるのが正しい姿だろう。高齢化社会の課題解決に役立つロボット技術やサービス、インフラが開発できれば、日本は世界に先駆けて優良高齢化社会のモデルとなり、輸出産業にもなる。まさに超高齢化というピンチをチャンスに変えることができるのだ。

ロボット技術は、賢い機械をつくるための技術であり、今や車や家電製品に無数に導入されている。人間のカタチをしたものがロボットというのは誤った認識である。ロボットの正体とは、「感じて、考えて、動く」知的な機械であり、「認識と認知」「考えるための人工知能」「動くための運動制御」技術が備わっていることがポイントだ。

ILY-A

「ILY-A」:目的に応じて4モードに変形する。1.持ち運ぶときの「キャリーモード」、2.自動停止機能と人工知能を搭載した電動3輪車の「ビークルモード」、3.立ち乗りができる「キックスケータモード」、4.パワーアシストがついた手押し車の「カートモード」。世代を超えたニーズに応える"未来の足"をカタチにした。(※ILY及びILY-Aはアイシン精機株式会社の登録商標)
[写真:fuRo提供]

名前は残らなくてもいい。
人の役に立つ技術を広めて不自由をなくすことが私の夢

そもそも私が最初に出会ったロボットは、テレビアニメの「鉄腕アトム」だった。アトムもすごいが、それを生み出した天馬博士こそ、平和と正義に貢献している存在だと気づき、子ども心に将来の夢はロボット研究者になると決めた。

しかし、14歳のときに脊髄がウイルスに侵される難病にかかり、余命は8年、治っても生涯車いす生活になると宣告された。病院生活では、昨日まで生きていた人が次々に亡くなっていく現実を目の当たりにして、人生について深く考えさせられた。限られた人生の中で、やりたいことを徹底的にやるべきで、ロボット好きの私は、自分がこの世に生きた証をロボット技術で残したいと思った。幸いなことに完治しないと言われていた病気から奇跡的に回復し、夢を追うことができ、現在に至っている。

入院中の出来事で、外出許可が出たときに、通い慣れた秋葉原に行ったことがある。当時の駅はエレベーターがなく、駅員さんに車いすごと運んでもらった。そのとき思ったのは、人の助けを借りないと好きな場所にも行けない不自由さをなんとかできないものか、ということ。一人でどこへでも行け、階段も楽に登れる車いすはできないか。しかも誰もが欲しくなるような格好の良いデザインで。そうした人の役に立つロボット開発をしたいという思いが、ずっと私の心底にある。

ロボット技術で世の中を変えたい。名前は残らなくていいから開発したロボット技術が世の中に広まり、"不自由が不自由でなくなる" ことが私の夢である。

技術の先にある目的の最大化が自分の使命。
原子力施設の廃炉技術も「ものごとづくり」の発想が不可欠

福島原発で成果を挙げたのは
現地スタッフとの交流で築いた
「災害対応ロボット文化」のたまもの

先に、ロボット技術の開発や仕事においては、「ものごとづくり」が重要だと述べた。それは、東京電力福島第一原子力発電所の事故、廃炉に向けた内部調査に貢献している災害対応ロボットの開発・運用も同じだ。建屋内を調査した国産ロボット「クインス」もわれわれが中心になって開発した。建屋内の急勾配の階段を上がり、1〜5階まで全て動いた唯一のロボットである。放射線量の測定、燃料プール付近の撮影をはじめ、飛散した放射線を見える化するため60kg以上あるガンマ線カメラをロボットに搭載し、放射線量を示す地図の作成にも成功した。

製作にあたっては、建屋内と全く同じ模擬施設をつくり、操作・操縦マニュアル、訓練コース、シミュレーターを準備し、そして事故現場で働く人たちから、何百回となく細かい要望を聞きながらその場で改良していった。今まで操作したことがない人たちが安心して使える運用方法まで含めてロボット技術を開発し、現場スタッフと一緒に原子力災害対応ロボットの文化をつくりあげていった。原子力発電所を安全に廃炉にするためにも引き続き協力し、「ものごとづくり」を進めていく。

「できるかどうか」とよく聞かれるが、"誰もやらないからやる" "できるようにする" のが自分の使命だと考えている。技術の先にある「本当に人の役に立つ」「不自由をなくし社会全体が幸せになる」といった本来の目的を最大化する未来づくりにこれからも貢献していきたい。

文・構成/松本稔 撮影/秦英夫

クインス

「クインス」:放射能汚染を含めた災害時に、人に代わって現場に進入し、状況調査を行うことを目的に開発されたレスキューロボット。コンパクトなクローラー(ベルト式の車輪)なので原子炉建屋内の斜度40度、幅90cmの狭い階段の昇降も可能。建屋内部は分厚いコンクリートで無線が使えないため、有線ケーブルの巻き取り装置も搭載。2011年の福島第一原子力発電所の内部探査にも活用された。また浜岡原子力発電所にて試験も行われた。
[写真:fuRo提供]

ローズマリー

「ローズマリー」:原子力発電所内の探査を行うために開発されたロボット。その開発には、「クインス」運用によって得られた多くの知見が生かされている。
[写真:fuRo提供]

サクラ1号

「サクラ1号」:「クインス」や「ローズマリー」の知見を生かした最新型の災害対応ロボット。福島第一原子力発電所の建屋内を再現した試験場(千葉工業大学新習志野キャンパス内)でテストが繰り返された。現場の要望に応え、災害時の原子力発電所や水中など過酷な環境下でも作業が可能。

千葉工業大学・東京スカイツリータウン®キャンパス

「千葉工業大学・東京スカイツリータウン®キャンパス」:研究活動を通じて生まれた先端技術を応用した体感型アトラクションゾーン。ロボット技術をはじめとした先端の科学技術を体験できる。
[所在地] 東京スカイツリータウン®ソラマチ8F10:30~18:00開館(入場無料)
http://www.it-chiba.ac.jp/skytree/ 別ウィンドウ
[写真:fuRo提供]

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