電気のこれからを考える「場」

竹内純子
国際環境経済研究所理事
筑波大学客員教授竹内 純子
(たけうち・すみこ)慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2012年NPO法人国際環境経済研究所理事・主席研究員、ʼ16年筑波大学客員教授に就任。10年以上、国立公園尾瀬の自然保護にも携わった経験を持ち、地球温暖化の国際交渉や国内外の環境・エネルギー政策分野において積極的な提言を行っている。

再エネ現場を歩いて見える
エネルギー政策の課題と未来への期待

深刻化する地球温暖化。その対策として、エネルギーの脱炭素化への取り組みは、急務である。
政府が描く2030年の電源構成では、再生可能エネルギーが22〜24%を占めることになっており、普及拡大が求められているが、国民負担の軽減など多くの課題が山積している。その現状について国際環境経済研究所理事・主席研究員の竹内純子氏に解説していただく。

2兆円を超す再エネ買い取り費用。
国民負担を軽減する制度設計に改めないかぎりやがては破綻。

再エネ拡大を急ぐあまり
賦課金の増加に伴う国民負担が急増

日本において、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の普及拡大を図るため、固定価格買取制度(FIT)が導入されて5年余りになる(図1参照)。
導入後、新たに運転を開始した再エネの設備容量は約3223万kW(2016年9月時点)。開始前の累積設備容量の約1.6倍になった。
それまでの普及政策での増加率と比べると格段に勢いがあり、「FIT効果」といえる(図2参照)。

[図1] 固定価格買取制度の仕組み

再エネにより発電された電気を電気事業者が国の定める買取価格・期間で買い取る。買取費用は、電気料金の一部として、広く電気をご利用の皆さまに、電気の使用量に応じた賦課金という形でご負担いただく制度。

[図2] 再生可能エネルギー設備容量の推移

しかし、太陽光・風力という再エネは"自然変動電源"ともいわれ、稼働率が低い。設備容量はその設備が持つ能力を表すが、実際に生み出す電気が少ないという課題がある。発電電力量全体に占める再エネ(水力を除く)の割合はʼ15年度で4.4%にすぎない。
再エネに関する最大の課題は、国民負担が膨らんでいることだ(図3参照)。

[図3] 再生可能エネルギー賦課金の推移

竹内純子

FITが導入される以前から指摘してきたことだが、「費用対効果」を見据えたうえで再エネを導入するという視点が重要だ。再エネを大量に導入したいのであれば、できる限り安価でなければならない。国民の財布は無限ではないからだ。
国民が負担する年間の賦課金が2兆円を超えるまでになり、特に弱者世帯がこの負担に耐えきれるか心配だが、企業にとってもさらに深刻だ。以前訪ねた素材メーカーの工場は徹底した省エネ対策や夜間に操業をシフトすることで電気代を抑制しているにもかかわらず、今年1月の電気代が約5600万円、そのうち賦課金が約1600万円に達したと嘆いていた。賦課金は民生用・産業用、昼間・夜間を問わずかかるので負担率が高くなってしまう。

FITは再エネの導入量を見ながら買い取り価格見直しの頻度を上げるなど、柔軟な運用をしなければ国民負担が莫大になるリスクがあることは、諸外国の経験からも明らかであった。しかし日本はこれに学ぶことができなかった。制度導入当時から警告を発してきた立場からすれば、起こるべくして起こったと言わざるを得ない。
政府は今年4月から改正FIT法を導入し、賦課金の上昇抑制を図るとしているが、ʼ30年の電源構成案で想定する以上の設備を既に認定した太陽光発電をどう整理していくかなど、見直すべき点は多い。

エネルギー業界に押し寄せる「5つのD」のうねり。
2050年を見据えたビジネスモデルをどう描くか。

「5つのD」のうねりに備え
電力会社は将来の存在理由を模索すべき段階

政府の電源構成案(図4参照)を見ると、どの電源も25%前後のものが多い。つまりどの電源がエースになる(1つに頼る)という想定ではない。エネルギー政策は、安全の確保を大前提に、「安定供給・安全保障」「経済性」「環境適合」の同時達成を踏まえた最適なエネルギーミックスを考えていかなければならない。
ʼ30年に向けたエネルギー問題も重要だが、私は今、ほかの研究者とともに、「2050年」に向けたエネルギー問題を考えている。インフラを支える電力事業は、大がかりな設備設置となると、計画段階から数十年を要する。今から、さらにその先を見据えたビジョンを考えるべきではないだろうか。
その際、次のような「5つのD」の視点が大切だと考える。

[図4] 2030年度の電源構成の目標
  1. Depopulation(人口減少)
  2. Decentralization(分散化)
  3. Deregulation(自由化)
  4. De-Carbonization(脱炭素)
  5. Digitalization(デジタル化)

日本はこれから確実に"人口減少"期を迎え、それは特に地方において急速に進展する。電力需要も減っていく中で、これまでのように設備を更新していけば次世代に大きな負担を残すことになる。さらに分散型の再エネは今後も拡大が見込まれる。パリ協定に象徴されるような脱炭素化の要請は今後強まる一方であると考えられるからだ。しかし、日本はこのタイミングで電力小売りの全面自由化を行った。再エネの不安定性を調整する役割を負う従来型電源の維持が難しくなる。また、デジタル化による革新で、電気の使い方やサービスのあり方が全く変わってしまうこともあり得るだろう。
こうした「5つのD」のうねりの中、電力の全体像を適切に描いていかねばならない。電力会社には、総合エネルギーサービスのさらに一歩先を見据え、新しい価値・収益源となる新たなビジネスモデルを大いに期待するところである。

地域との共生を見据えた現場重視の発想がなければ
国民の支持は得られない

再エネの現場をいくつか訪ね歩く機会があった。現場を見て分かることが多い。地域と共生し、国民負担の軽減を図らなければ、国民の支持を失う。息長く取り組む課題であることを、現場取材の結果、改めて考えさせられた。

1.太陽光発電バブルが招く光と影

八ヶ岳を望む山梨県北杜市は、全国有数の日照条件に恵まれ、多くの太陽光発電事業者が進出しており、地元の関係者には、今でも太陽光発電の設置を要望する声が寄せられる。しかし、太陽光発電の施設が増え過ぎたことによる弊害も生じている。設置のために森が切り開かれたものの、その後放置されている場所もあった。
また、事業者と経済産業省だけで設備認定が進められた結果、自治体は設備ができるまで認知することができない。電気事業法で太陽光発電設備に求められる仕様を考慮しない施工によるトラブルも生じた。
そのためʼ17年4月からは認定制度が大きく変更された。系統接続について電気事業者が同意していることが要件となり、これまでの「設備認定」から「事業計画認定」となる。既設設備にも適用されるので、事業者が最後まで設備に責任をもつのかという地域の不安軽減につながる。
大きな改善ではあるが、あくまでガイドラインであり、莫大な数に上る再エネ事業計画の認定、撤去について自治体がどこまで対応できるのかという課題も残る。

太陽光発電

メガソーラー建設のため森が切り開かれたものの、放置された土地もある。(山梨県北杜市/竹内氏撮影)

2.地熱発電拡大を阻む事業リスク

安定的な稼働率からベースロード電源として期待されている地熱発電であるが、発電電力量に占める割合は0.2%にすぎない。その要因として事業リスクの高さが挙げられる。地熱発電に必要な蒸気を取り出すには、地下に浸透した雨水がマグマだまりで温められた「地熱貯留層」まで地下1~3kmほど井戸を掘ることが必要になるが、事業化の保証はない。

地熱発電所

九州電力八丁原(はっちょうばる)発電所は日本最大の地熱発電所。大量の蒸気を噴き出す際の轟音を緩和するため、サイレンサーが備えられていた。(大分県玖珠郡九重町/竹内氏撮影)

3.送電容量がネックとなる風力発電

私が以前、訪れた北海道の風力発電設備は、稼働率は平均約20%だが、ばらつきが大きい。主な理由は季節による風速、風向きの変化である。変化の激しさが設備に負荷をかけることによってトラブルが生じやすい。また、送電線の容量も風力発電の普及にとってネックとなっている。送電線を整備するには、多大なコストと時間がかかる。再エネ大国といわれるドイツでも、送電線が通ることによる景観悪化などを気にする住民の反対により整備が滞っており、ʼ16年までの進捗率は約35% に留まっている。

風力発電

多くの風力発電が設置されており「風の町」として知られている。(北海道苫前町/竹内氏撮影)

文・構成/丸上直基 撮影/加藤有紀

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